脱原発神話 番外2 ・・・化石の時代がやって来た [2012/8/21]

原子力発電を動かさなくても電力は足りる、といういい加減な主張をする人たちがいる。朝日新聞や社民党の福島瑞穂氏がその代表。それが実に危ういものだということは事実を見れば明白だから、ここでは一々分析しない。電力が足りる足りない、停電になるならない、も重要なことにちがいないが、そのことにも増して大問題なのが、原子力に代わってフル運転&緊急増設させられている火力発電のことだ。

上のグラフは電気事業連合会の10電力会社にかんする電力統計データから作成した。電源種類別の発電電力量の変遷を表している。ウグイス色の原子力は、関西電力の大飯3,4号だけが稼働すると仮定したばあいの今年度の発電電力量予想。7月〜翌年3月までフル稼働とすれば、およそ合計150億KWh。これに今年4月、5月まで稼働していた北海道電力泊原発と東京電力柏崎の計およそ8億KWh を加えると、2012年度は総計160億KWh 程度に止まることになる。2011年度が9社合計で1000億KWh の原子力発電発電量があったことに比べても大幅に少ない。グラフでは小さすぎて見えないくらいだ(右端下)。

この結果、その原発減少分をまかなうために火力発電(赤茶色)を最大限に増量せざるを得なくなっている。ガスタービン発電の緊急導入だけでなく老朽引退していた火力発電設備まで引っ張り出してきた。2011年度は、震災の直撃を受けた東京電力、東北電力を中心に火力は前年より20%も増やしたが、今年度はそれをはるかに上回る、火力発電の大盤振る舞いになる。だいたい2000年代の平均的火力発電量の5割増。おそろしい、火力依存国家になってきた。温室効果ガスの削減どころの話ではない。あきれるほどの時代逆行が起きてしまっている。まさしく「化石の時代」の到来だ。

補足:火力の発電量が5割も増えるからと言っても、火力発電所が急に5割も増えたわけではない。これは、もともとベースロードに使わないはずの火力をベースロードとして四六時中、フルに発電し続けるということなのだ。本来は、ベースロードは原子力の役目で、火力は需要の増減にあわせて出力を上下させてきた。

脱原発をかかげるドイツさえ、年間およそ6000億KWh のうち原子力で1000億をまかなっている。日本の状態がいかに異様か、国民経済にとって「破壊的」か、よく認識したほうがいいだろう。

パンがなければケーキを食べればいいじゃない

これが「脱原発」のもたらす経済的意味、環境的意味をともなう具体的現象だ。化石燃料の消費増で年間3兆円、4兆円もの外貨があっさり流出する。電力会社の首は絞めるは、やがて電気料金値上げに跳ね返るは、天然ガスや石炭の輸入国に頭が上がらなくなるは、貿易赤字がふくらみ続けるは・・。そのうえ炭酸ガスの大放出セールというわけなので。いやはや。これで、原発がなくてもやっていけるじゃん。だとは、どういう神経回路だろう。

関連:

・総合エネルギー調査会基本問題委員会資料:
「2030年における電源構成とCO2制約」(慶應義塾大学・野村浩二)

・「ドイツの電力事情 〜理想像か虚像か〜」(国際環境経済研究所・竹内純子)



 

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