アイスクリーム、アイスクリーム
アイスクリーム、私の恋人よ
あんまり長くほっておくと
お行儀が悪くなる〜〜♪
この週末に、ラフランスの収穫を終えた。アイスクリームほどではないが、西洋梨もあんまり長くほっておくとお行儀が悪くなってドロドロになることも多い。洋梨類はすべて収穫したては硬く、何日か「追熟」させて柔らかくなってから食べる。お客さんから、よく「食べ頃がむずかしくてねえ」という声を聞く。早いと硬すぎるし、遅いと手で持てないくらいに溶けてしまう。ラフランスが届いたら、仏壇の前にお供えして、毎朝仏様に手を合わせついでに果実にさわって様子を見る。これが信心深い仏教徒におすすめする正しい西洋梨の食べ方だ。かならずご先祖様が食べ頃をしっかり教えてくれるはずだ。キリスト教徒やイスラム教徒はいかがすべきか知らん。
食べ頃も分かりにくいが、洋梨は農家にとって収穫適期の判断がむずかしい。リンゴみたいに赤く色づくわけで梨、ほとんど黄緑色のまま(スタークリムソンは赤紫色のまま)だから、いつ収穫したらいいのか困る場合がある。近年のように異常気象がひどいと、過去の経験を頼りに単純に「何月何日ごろに収穫」と決めつけられなくなる。すると、収穫が早すぎたり、逆に遅すぎたりという失敗をやらかす可能性も出てくる。早すぎればいつまで待っても柔らかくならないで、しなびてくる。遅すぎると、これもまたトロリとした柔らかさにならなかったりする。また遅すぎると、ラフランスの場合は樹からぱらぱら落ちてしまう。
今年は夏が短くて涼しく、果物は秋が早く来たと感じたのか、早生の西洋梨類は熟度の進みが早くて収穫後すぐに柔らかくなってしまった。それからすると、ラフランスも例年より早めに収穫すべきところだった。しかし、夏の日照不足を考えると、なるべく遅くまで樹に成らせておいて糖度を回復させたい、という気持ちもあった。結局、ほぼ平年と同じ時期に収穫したのだった。その結果がどうなのか、もちろん食べ頃になってみないと分からない。
我が家もときどき「何個か柔らかくならないのがあったよ」という苦情をいただくことがある。あるいは、送り先はたいてい山形県より暖かい地方なので、こちらの予想よりずっと早く軟化して、お客さんが箱を開けてみたときにはもう柔らかくなっていた、ということもあるらしい。それと、どうも箱に詰めて車で長い距離を輸送していくと、その間の振動とか何かのせいで熟度が加速するような感じがする。すべての果実を追跡調査できるものでないので、送った農家としては、送り先で何日か後に梨がちゃんとおいしく食べていただけたのか、ほとんど分からないのだ。
むかし西日本で西洋梨が珍しかったころのお話。あるとき知人から送られてきた西洋梨をすぐ皮をむいて食べようとしたものの、それが皮もむけないほどあまりに硬く、かじると歯が壊れそうだった。受け取った人は「西洋梨って美味くないなあ。こんなものは食えない」と、鍋で煮て「美味しく食べた」そうだ。
こんな具合で、西洋梨はけっこうトラブルの多い果物だ。下手をするとお客さんに嫌われてしまう。「西洋梨は嫌い」派が少なくない背景には、こういう洋梨の宿命もあるかもしれない。ちなみに、作って売っている私は西日本生まれで、梨といえば西洋梨より和梨のシャリシャリ感が好きだ。どうもあの洋梨のモッタリ感は今ひとつ馴染めない。美味しいといえば美味しいけどね。