記録的安値 9月16〜23日

2002年版No.23
戻る

先日あるお客さんから次のような「ご意見」をいただいた。
1.送られてきた西洋梨の大きさがバラバラだった。同じ大きさにしたらどうか。
2.贈答用は1個1個包んだ方がいいのではないか。

このお客さんはわが家にとって一二を争う「注文の多いお客さん」なので、いつもいつも「注文」を必ず付けてくださる。あはは。注文の多い果物屋も負けるよ、この手の人には。このホームページ表紙の『ごあいさつ』と、この農作業日誌の『だんご甘いか酸っぱいか』に私の答えがちゃんと書いてある。

さて本題だ。農薬問題の逆風で市場卸値の1箱平均価格は1000円を大きく切った。歴史的な、記録的な仕切値だ。ここに数字を書くのもはばかられる。これは運賃、資材代、出荷経費などを差し引くと後には300〜400円前後しか残らないという数字だ。リンゴ1個に換算すれば10円くらい。もちろんここから肥料代や農薬代など生産経費をさらに引けばほとんど何も残らない。一年手をかけてこれでは・・・。わが家はお客さんに直接買ってもらう分でそこそこの収入が確保できるからまだ救いはあるが、市場出荷に頼っている果樹農家にとっては致命的なんてものじゃない。出荷すればするほど損をしかねない。出荷しない果実を処分するための大きい穴を畑に掘り始めた農家もでてきた、そんな噂話も聞かれるようになった。10月以降もこの調子が続くと、事態はいよいよ深刻なことになろう。牛肉BSEによる牛肉産業の打撃にだんだん似てきた。山形産の果物だけがねらい撃ちになっているみたいな状態だ。

全国各都道府県の使用状況と農薬の説明はこちら→ 農林水産省ホームページ・無登録農薬問題

隣町の高畠町では4軒の農家が問題農薬を使っていたそうだが、これらの農家の果実は全量廃棄処分になった。樹になっている果実すべてをもぎ取っての処分だ。高畠と言えば「有機栽培」で有名な地域で、星寛治さんという著名人もいる。同町に住む知り合いの農家の話によると、そういう地域ということもあってか、無登録農薬を使っていた農家は周囲の冷たい目もあってこれからも農業を続けていく自信をなくしてしまい、廃業することになりそうだという。同じ農業者として、ああいう農薬を使いたくなる気持ちは理解できなくはないから、何とも複雑な思いがする。

「有機栽培」とか「無農薬栽培」とかいった言葉は、農業体験のない消費者にはある種の「幻想」を与えているかも知れない。「ちょっと努力すれば可能である」かのような幻想を。しかし農薬を使わなかった場合の虫や病気がどれくらいのものになるか。虫も病気も善良なお百姓さんだからといってまったく容赦はしてくれない。たとえは適切でないかも知れないが、医者の使う薬だって有効性と副作用とのバランスの上に成り立っている。病気にいかに有効な医薬品といえども使い方次第で重大な薬害をもたらすことは言うまでもない。副作用のない薬は効かない薬、というのは果たして暴言だろうか? 農薬も基本は同じリスク・ベネフィット論(危険と利益のバランス論)にもとづいて考えるのが最も合理的なのだ。無論、利益は最大に、危険は最小に、の方向で。

といったふうに私は考えるが、農業や農薬についての知識の全然無い一般の消費者にとっては、こんなことを書いても誤解されるだけかも知れないな。

▲もくじ