「銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに.」という歌を歌いながらゆっくりと大空に私は輪をえがいていました。−『アイヌ神謡集』(知里幸惠編訳)より−
フクロウが鳴かなくなって二回目の春を迎えた。毎年深い雪が解けて消えたころ、夜の静けさの底をとつとつと打つかのようにフクロウは鳴き始める。沈黙..
.........ほらね..........
その声が昨年から聞こえなくなった。あの記録的大雪の冬を越すことができなかったのか。ねぐらにしていた洞のある大木が雪に倒れたのだろうか。それとも。
わたしがこの鳥について教えられた最初のイメージは、阿部次郎の『三太郎の日記』からのものだった。「ミネルヴァの梟は夕暮に飛ぶ」
あれは十代の終わりだった。いまでもそのフレーズを思い出すということは、それが当時のわたしの何かに反応した、その微かな標なのかもしれない。それは感傷をともなって振り返ることもできる。が、やめにしよう。
鳥たちの繁殖期が始まった。これからリンゴの花の咲くころを山にしてさまざまな小鳥のさえずりが聞かれるだろう。木々は芽吹き、花を開き、葉を広げ、虫たちが集まる。鳥もつがい卵を産む。5月の後半はその虫を捕らえて雛の餌にするために小鳥が飛び交う。そういう季節へと生き物の世界は急ぎ足で進んでいく。農家も遅れては居られない。きょうは入学式だ。