暖冬だ。去年の今頃のことを思い出すと、この暖かさは夢のようだ。雪が降らずに雨が降る。昨年末に1メートルはあった畑の雪もすっかり減って、50〜60センチ前後を上下している。やはり温暖化は確実に進んでいるようだ。しかも予想以上の速さで。
冬暖かくてしのぎやすいのは喜ぶべきことだ。ところが植物にとっては冬の寒さはとても重要な意味を持っている。木々がなぜ落葉するのかと言えば、葉っぱが付いたままでは雪が積もって枝が折れるということもあるが、それより冬は完全に眠るために葉っぱを落とすという意義が大きい。無駄な消耗を抑えて熟睡する。そのためには一定の寒さが必要なのだ。植物では、この静かに眠る期間を休眠期と呼ぶ。この期間に木々は次の年の春を元気に迎えるため静かに眠る。暖冬が進むということは、夜も外は明るく騒々しい状態になることを意味する。休めなければ昼間の活動は衰える。これを毎年繰り返すとどうなるか。その樹木は死ぬ。こうしてある地域の気候に適応していた植物の世界に変動が起きて、植生が変わってしまう。例えば山の頂上が暖かくなれば高山植物は逃げ場を無くして滅びることになる。一度滅びたらお終いである。
気候のブレが極端になるというのが地球温暖化の症状の第一だ。単に暖かくなるというだけではない。大気の状態、大気の流れに異変が起きてくるのだ。ほんらい降りてこない時期に北極の寒気団が日本まで降りてきたり、太平洋高気圧がいつも以上に北に勢力を伸ばしたりする。ローカルな範囲で見れば春の開花期に気温が下がったり、雨が少ない季節に大雨が続いたり、猛烈な暑い夏や逆に寒い夏が来たり、朝夕涼しくなる季節に夜も暑かったり、というようなことが起きるようになる。温暖化は病害虫の発生を増加させる。果樹農家にとって、こうした現象のどれをとっても脅威なのだ。果樹農家と限定する必要もない。農業にとって深刻な脅威なのだ。地球規模でこれが来たらどういうことになるか、言うまでも無かろう。
昨年アメリカは、ブッシュというエネルギー産業の操り人形の登場によって京都議定書からの離脱を宣言した。この操り人形はアフガンのタリバンを壊滅させることで中東から南アジアに至る地域にまんまとくさびを打ち込んだ。西のイラン、東にパキスタン、インド、北にカスピ油田天然ガス地帯をひかえる、信じられないくらいエネルギー戦略上の重要な位置を確保した。あれが本当に「テロとの戦い」だったのかどうかは、そのうち歴史が明らかにするだろう。
そのアフガニスタンでは過去3年ほど続けて干ばつに見舞われてきたという。モンゴルでは一昨年、昨年と猛烈な寒波で家畜が全滅したという。気候の変動がきわめて激しい。これが地球の温暖化に関係があるとも無いとも言えないが、もし因果関係があったとしたら、こうした気象災害を引き起こしている犯人はアメリカあたりにいることになる。次のようにも言えるだろう。地球環境に対する最大のテロ組織。それがアメリカであると。そういう環境テロは、その原因を作った側に影響を及ぼすのではなく、まったく無関係な、気候変化に対応できないような貧しい国地域に壊滅的被害をもたらす。高層ビルを一つ二つ壊すどころか地球そのものを壊してしまうのだ。