サクランボのハードな季節も終わろうとしている。果樹栽培は数々あれどサクランボ作りほど過酷で危険なものは無いだろう。あの可愛らしいイメージとは正反対。6月初めに高所で行う雨よけハウスのポリ広げと防鳥網張りは非常に疲れる作業だ。また、一夜にして果実の品質が悪化する危険をはらんでいるため神経の休まるヒマもなく、農家にとって精神衛生上きわめてよくない果物と言える。年に一度のことなので失敗も許されず、この6月はサクランボ農家の一年で最も長く憂鬱な季節を意味している。だから、シーズンが過ぎて「おいしかった」というお客様の便りがとどくことだけが力になる。
うちのお母ちゃんは半月の収穫期間中、毎朝真っ暗なうちに起きる。私と爺さんは外が明るくなる5時前には畑へ出かける。疲れ果てて寝るのは夜10時ごろ。毎日タウリン1500mgのドリンク剤が欠かせない。最近の流行では、サクランボのシーズンが終わるころ、農家の男衆は医者に行って栄養剤の点滴をたっぷり打ってもらい、体力の回復をはかる。この期間病気になることは御法度で、心身ともに"High"な状態で突っ走らねばならない。寿命の来た年寄りもこの時期に死なないよう気力で踏ん張る。死んだら家族の農作業が不可能になるので、是が非でも7月まで持ちこたえるのがサクランボ農家の年寄りの正しい死に方である(笑い)。
こんな生活が身体に良いわけない。ハウスや防鳥網撤収作業のすべてが終わる7月半ば、緊張の糸が切れてたいがい体調を崩してしまう。目の前にはリンゴの仕事が山のように溜まっているというのに・・。たかがサクランボのために命を縮めるのはバカバカしい。しかし注文が来る以上、このサクランボ作りを止めることも出来ない。それに果樹農家にとってお盆前に入ってくる唯一の収入源だ。我が家の生産能力、選果発送能力はほとんど限界点にある。毎年、こんな仕事に見合うだけもっと大幅値上げして注文量を制限しようかな、と悩んでしまう。消費者の皆さんは想像も出来ないことだろうが・・。
注:言わずと知れたビートルズ・ナンバーです。