21世紀は記録的ドカ雪で始まった。2001年1月2日は雨からみぞれに。そしてその夜、 「赤い雪」が静かに降ってきた。翌日も雪、それは純白ではなく薄茶色の雪で重たかった。黄砂がまじっていた。黄砂といえば、春先に中国大陸奥地の砂がまきあげられて、はるばる日本の上空まで運ばれてくる現象だが、それが新年早々やってきた。このことからして普通でなかった。この日からおよそ2週間、ほとんど休みなく雪が降り続くことになる。
この冬の積雪は1月中に2メートルを超え、最大時は畑で2メートル50センチに近づいた。累積降雪量は10メートルを軽く突破、65年ぶりという豪雪になった。当地の果樹農家も経験したことのない大雪に、あちこちでサクランボの雨よけハウスが倒壊した。ポリはもちろん掛けていなかったが、雨樋と鉄パイプに積もった雪の重みに耐えられなかったのだ。雪にすっぽり呑みこまれた果樹は枝折れ、幼木は押しつぶされた。
生き物は不思議な能力をもっている。未来を予知するという。カマキリが卵を高い位置に産みつけるとその年の冬は大雪、カメムシが秋に大発生するとその年は大雪になるという。去年の秋はどうだったか・・・・・。晩秋、カマキリは卵をいつもより低い場所に産みつけた。10月11日、クサギカメムシの成虫が大発生した。もちろん成虫が突然、天から降ってきたのではない。どこかの林や草むらに潜んでいたのが越冬場所を探して家屋の周りに集まってきたのだ。ふたつの事実はまるで異なる未来を予測していた。結果をみるとカメムシの予測の方が的中したことになる。
あの大発生はまったくすさまじかった。家の周囲、小屋の周囲、何百、何千の虫が飛びまわり這回っていた。山形県下あらゆるところでそうだったらしい。空気がカメムシでくさくなった。思い起こせば去年の夏はおそろしく暑かった。真夏日数は過去の記録を大幅に上回った。それがカメムシの異常繁殖につながったと考えられる。科学的にみれば、カメムシは冬を予想して増殖したというよりも夏が暑かった結果増殖したといえるだろう。猛暑の年は大雪になるという言い伝えとも一致している。
その一方でカマキリは地上数十センチの草の茎に卵嚢をつくっていた。カマキリの積雪予測能力については、気象庁の長期予報とちがってよく当たるというのが定評になっている。子孫を残すという生き物の大目標は、カマキリをこのように進化させた。だから普通なら雪は多くないはずだった。では勘が狂ったのか・・・・? あるいはまた、あまりの大雪の予測に自分でも驚いてしまって、初めから高い場所を探すのをあきらめてしまったのか?
春になって雪が消えたころ、プレハブの物置小屋のなかにカマキリの卵が産みつけられているのを見つけた。あれは一体何だったのだろう。ひょっとして本当はカマキリも大雪が来るのを知っていたのではないだろうか。この世で知る限りのもっとも安全な場所を、彼女は選んだ?
補足(2012年12月25日):上で書いたカマキリの積雪予報というのはまったく根拠のないトンデモ理論。積雪量とは何の関係もないし、残念ながら当たったためしもない。当たるというのは、人間のつくったロマンチックな夢だろう。それは、そもそも卵が仮に雪に埋もれたとしてもそれで卵が死んでしまうわけはない、という事実に基づいている。雪に埋もれないようにする意義がないのに、雌カマキリがわざわざ高い場所に産み付ける必要もない。