この唄は誰が歌っていたのか、今思い出せない。西田佐知子? 違うかなあ。旧い流行歌だから。
関西テレビの番組『あるある大事典』納豆ダイエット事件については、もうみんな聞き飽きている頃だろう。しかし、ちょっと書いておく。
わたしはテレビをあまり見ない。だから、テレビがねつ造番組を一日中ばんばん流していたとしても、ほとんど知らないままに毎日の生活を過ごしているだろう。テレビを一生懸命見ている人が仮に「騙されて」納豆を買ったとしても、わたしには同情する気持ちは起きない。べつにテレビを見ている人のなかでも、騙されない人は騙されないのだろうから、騙されるのは恥ずかしいことなのだ。
じつは昨年、「青リンゴは美容に良い」とかいうテレビ番組があったらしい。その番組が放映された後、青いリンゴの市場価格が急騰した。赤いリンゴ品種よりも黄緑色の王林という品種が高く売れた。今までにそんなことは一度もなかった。王林はずっと安値を低迷する落ち目のリンゴだった。それが、去年は市場で一番高かった。まったくアホみたいな話だった。これと似た話としてあまりに有名なのが、みのもんたの「思いっきりテレビ」で、あの番組が食べ物市場を動かす話は前からずっとあった。お昼時に暇な爺さん婆さん、専業主婦が、この番組につぎつぎ出てくる体に良い食べ物を買いに走ったりしてきたのだ。
「騙した男」が悪い、悪い、と騒いでいれば、我が身は安泰だ。しかし、「騙される女」が悪いばあいもある。とくにマスコミが流す報道は、それを信じる方にも責任はある。納豆ダイエットを信じた人は間違いなくその手の責任をもっている。騙されることにおいての自己責任があるのだ。そのことを問わないで大衆にこびへつらうのがマスコミというものだ。マスコミにとって大衆を愚かなままにしておくには非常に都合がいい。
ところで、去年、高校の必修科目偽装問題が大騒ぎになった。校長の自殺者まで出た。耐震建築偽装に始まったこの時代、教育の場でも偽装高校卒業生が大量に社会へ送り出されていたわけだった。
効率とカネが左右するこの時代である。偽装で建てられた家に住み、偽装で送り出された若者が世を歩いている。と言ったら当人にはちょっと可哀想だが、そういうことになるだろう。インチキでも何でも、ひとたび通ってしまえば問題にはならない。震度7の地震が40年くらい来なければ、なんということもない。誰も何も疑わず安心して暮らせるのだ。耐震偽装マンションやホテルがヒューザー提供のものだけでないのは当り前の話だが、ヒューザーの小島社長、姉歯氏ほかがスケープゴートにされただけで、ほかにもいっぱいあると想像されるインチキビルはそのまんま、平気な顔で使われているだろう。
と思っていたが、今年になってようやくアパ・グループの偽装建築が行政の手で公にされた。インターネット世界ではずっと前からアパ問題が糾弾されていたのだが(『きっこの日記』)、やっと「公式」にマスコミがとりあげるようになった。この耐震偽装マンション同様に、偽装高校生は昨年たまたま表沙汰になった人が損をしただけで、それ以前の受験生、大学進学生はそのまま無罪放免だった。インチキでも何でもうまいこと通ってしまえば問題にはならない。
コイズミくんが一世を風靡したこの時代は、詐欺と偽装の天国だった。コイズミ構造改革という大詐欺で、この国の人々は喜んでカネを吸い取られてしまった。吸い取ったカネを元に金融機関は息を吹き返した。企業は利益を増やして「景気」がよくなった。郵政民営化という詐欺で自民党は圧勝した。政府自民党主犯のオレオレ詐欺、振り込め詐欺に相変わらず、お人好しなニッポン人はカネを貢いでいる。
話はでかいほうが信じられやすく、大ウソのほうが疑われない。そういうことだ。ちょっと美味しそうなエサを撒いただけで、人々はわっと食いついて来る。それをマスコミはあおっている。一昨日あっちの話にワッと集まったかと思うと、きょうはもうそんなこと忘れて新しい話にどっと人が集まる。そのたびに大もうけだ。詐欺、詐欺、詐欺。キャッチセールス、催眠商法。騙す側も笑いが止まらないだろう。
同じパターンがあまりにも多すぎる。ノロウイルス騒ぎで牡蠣が売れなくなるという話があったのもつい最近だ。テレビ番組がキッカケにしても、風評がキッカケにしても、いとも簡単におおぜいの人間が過剰反応する。これは、大げさではなくおそろしく危険な社会現象だと思う。騙した人間よりも過剰反応する大衆の方がはるかに危険なのだ。大衆というものには名前がないので、つまり匿名なので、大衆の行動の結果としてどこかに犠牲者が出ても、だれひとり責任は問われない。名無しさんお腹いっぱいで無責任な大衆によってある日突然、血祭りに上げられた、本当の犠牲者は救われない。
最後に書いておこう。ブッシュ政権はイラクに大量破壊兵器があると言って侵略戦争を正当化した。まさしく巨大なねつ造、詐欺ではあった。ニッポンを代表するコイズミくんとそれに追随することしかできない官僚、御用学者がこれに乗っていっしょになってイラク戦争を正当化した。ニッポンの無責任を代表する彼らは今、そういう過去数年前の事実を忘れたかのように知らん顔を決め込んでいる。おかげでイラクでは何万という、犠牲者が出ることになった。そして今も出続けている。イラク人を殺しつづけているのは誰なのか。騙した男も悪いが、ウソと知りつつ騙された女はもっと悪いに決まっている。