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イチロー、おめでとう ・・・21世紀の大本営発表 [2009/9/14]

イチローがアメリカ大リーグで9年連続200本安打の大記録を作った。おめでとう。すばらしい。世界一。大統領。

しかしね、ちょっと変じゃないか。

文学的な、あまりに文学的な

「9年連続200本」、というのは「記録」と言えるのか。
何が言いたいか。
たとえばこういう話だ。

ジローが大リーグで10年連続199本安打を「記録」したとしよう。通算1990安打。
サブローは大リーグで8年連続230安打を「記録」したとしよう。通算1840安打。
じゃあ、イチローとジローとサブローはだれがいちばん偉大なバッターか?
偉大な順に3人の名前を答えよ。

答えられる人がいるだろうか。どっちが「大記録」だと言えるのか。どっちが「記録」として価値が高いのか。

つまり、この「200本」という数字に何かとくべつな意味があるのか。なんで190本でないのか、なんで220本でないのか。なんで200本なのか。数字のキリがいいから200本だとしたら、それは「文学的」には意味があっても、スポーツ記録としては無意味だろう。キリがいいとか、語呂がいいとか、そういう基準で記録を決めるものか。

ニッポン人のマインドコントロール

年間最多安打とかいった話なら、大記録として合点がいく。誰が見ても、年間安打数という数字が持つ意味がわかる。あるいは、9年連続首位打者という話なら、それは記録としての意味がわかる。しかし、何年連続何本安打というのが、「記録」と言えるものになりえる性質のものだろうか。

何年連続年間何本安打。ここには「何」がふたつある。数学でいえば「変数」がふたつある。2元方程式だね。ふつう、記録というのは変数が一つしかない。変数が一つならば、記録を客観的に比較できる。誰が上か下か。ところが、変数が二つ以上あると、話はめちゃくちゃ複雑になる。上のジロー、サブローを見よ。そんなもの、どっちが上か下か判定できるわけないじゃないか。

これは新記録という心理的トリックだ。数字の錯覚を利用したトリック。ニッポン中、錯覚また錯覚。大リーグはすばらしい。イチローは英雄だ。というニッポン人のマインドコントロール。2008年のイチロー日米通算3000本安打、張本をこえる日米通算3086本安打、というのもなんか変な記録だったが(木に竹を接いだような足し算)、9年連続200本もやっぱり変だ。

だれか、アタマのいい方、説得力のある答えを出してください。

大本営発表

「夕刊フジ」(Yahoo!ニュース)によると、イチローの200本安打記録なんてアメリカではさっぱり騒がれなかったそうだ。そうだろうよ。あんなの大記録とは言えないからね。正気の人間なら、誰も相手にしない「記録」だ。夕刊フジでは、イチローがヤンキースの選手だったらもっと騒がれたはずだ、というような分析をしているが、そんなの自己欺瞞というやつだ。

イチローはさすがにアメリカン・リーグ打撃成績の第2位だから、その点では文句はない。しかし、その他の日本人「大リーガー」の成績といったら、なんとしよう。ニッポンでは、毎日のように投手も打者も日本人選手が活躍している話だ。

たとえば、ヤンキースの松井秀喜も、ニッポンではよくニュースで取り上げられて、大活躍しているかのような「錯覚」がある。しかし、打率がたかだか2割7分の「凡打者」にすぎない。いつ戦力外通告されても不思議はない。

こういうのは、昔から「大本営発表」と呼ばれてきた。戦後半世紀以上も経つというのに、ニッポン人はまったく変わっていないらしい。大日本帝国海軍は毎日毎晩、米英艦隊を撃沈・殲滅している。太平洋上に日章旗はひるがえり、連合艦隊はかくかくたる戦果をあげている。ニッポンのマスコミ・マスメディアはどうしてこんなにアホなんだろう。

たかがプロ野球、されど

大本営発表で思い出した。

2004年まで、日本のプロ野球球団は試合の観客数を水増しして発表していた。Wikipedia によると、「東京ドームの場合も収容人員を1988年から1994年までは56,000人、1995年から2004年まで55,000人とし、さらに巨人戦の観客数を実際の入場者数に関わらず満員の55,000人と発表していた」。しかし、じっさいは「小石川消防署に届けられていた定員は46,314人」しかなかった。この事実は公然の秘密だった。マスコミ・大手新聞社もとうぜんそれを知っていたが、新聞紙面では、毎日、満員55,000人と記録していたのだった。

ウソと知っていながら、マスコミはウソの数字をあたかも事実のように毎日報道する。ジャイアンツの親会社・読売新聞、日本テレビだけの話なら水増しもあるかもしれないが、そうではない。朝日新聞だろうとどこだろうと、同じウソを長年にわたって報道しつづけていた。

たかがプロ野球の話だろ、どうでもいいじゃん。と思う人がいるとしたら、それはちがうでよ、と言っておく。スポーツ記事でウソをつくマスコミは、政治記事でも平気でねつ造記事を書く。こういう一見ささいな話の積み重ねが、気がつけば取り返しのつかないことになっているのだ。大本営発表というのは、北朝鮮の国営テレビ報道と同じだ。太平洋の海のもくずになったというのに「人工衛星」打ち上げ大成功!将軍様万歳! みたいな感じでね。