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マツの樹林が消えていく ・・・反農薬がもたらす風景 [2009/8/1]

先日、といっても6月だが、市の担当者が、松を伐採させてくれ、と言ってきた。松食い虫にやられた木を倒して処分したいということだ。我が家のもっている山林に生えているアカマツの木だ。2,3年前にも一度同じことがあって1本倒した。山は自宅から見えるので、その赤くなった松の木がわかる。なんで市が他人の松のことをお願いに来るかというと、市管轄の公園林がとなりあっているからなのだ。

7月30日のNHK「クローズアップ現代」で、島根県出雲市の松枯れ防除をやっていた。去年、ヘリコプターの農薬散布でもめた話の、その後の状況報告だった。

この問題については、空散農薬がかかったのが原因で小中学生を中心に目のかゆみをおこしたという主張と、農薬犯人説は科学的根拠がないとする主張とが、健康被害原因調査委員会で完全に対立した。原因解明をできないまま、結果的にそれ以後は空中散布が中止になった。何かわからんけど、止めとけ、という話だ。 議事録
委員会報告

しかし、空散を止めれば問題解決というほど、現実は甘くない。

農薬犯人説は、一般の住民に対していちばんアピールしやすい。「農薬は危険だ!」と騒げば、根拠がなくても正義になったりする。「予防原則」という、一見もっともらしい理屈をつければ、疑わしいものは何でも止めてしまう論拠になる。確かな証拠もなしに、疑いをかけられただけで罰せられる、中止・禁止に追い込まれる、というのは、一種の暗黒裁判だろう。そういうことが分かっていて、こういう対応をしているのだろうか。大声で騒いだ方が勝つような話では困る。

去年の出雲市の例について、農薬犯人説を批判しているのは、たとえば以下のページ。
『松くい虫防除の薬剤散布の健康影響』(本山直樹)
ページに添付されている『出雲市健康被害原因調査委員会メモ』でも委員会の実態がレポートされている。

松枯れの原因はマツノザイセンチュウだという。北米から入ってきて増えた外来生物だそうだ。しかし、それだけが原因かどうかは疑問だ。我が家のまわりでもニッポン全国どこでも松枯れが広がっている。それも、かなり急ピッチでだ。ここ10年くらい前からだったか、近辺の山では急に松枯れが目立ってきた。所有者がみんな切り倒してしまった山もある。しかし、こうやって被害樹を伐採処理していっても、被害は次の木にうつっていくだけで、松枯れをとめることなんかできないことは当事者なら皆分かっているはずだ。

松の木は海岸の砂地とか岩だらけの崖とかに生える。要するに栄養分の乏しい土地に適した植物だという。むかしは松林も下草刈りしたり枯れ枝を燃料のために取ってきたりしていたわけで、松の木の下の地面はけっこうきれいに「お掃除」されていた。ところが、戦後の燃料革命や生活の大変化でみんな山に行かなくなった。松林も荒れた。松林の下の地面が掃除されなくなって、土地が富栄養化していった。ほんとうは、松はやせた土地が好きなのに、土地が年々肥えていった。

こうなってくると、肥えた土地が嫌いな松は逆に弱っていく。抵抗力がなくなる。地面が肥えてくるとマツタケも生えなくなる。こうして松林の崩壊が始まるのだ。ただ単純に虫が付いたから松枯れが増えたというものではない。土地が松に適さなくなったことが背景にある。知人の林業専門家は前にそんなことを言っていた。弱った松はマツノマダラカミキリの餌食になっていく。そのカミキリムシがマツノザイセンチュウを松の木にうつして回る。

松枯れ多発は、こういうふうな日本人の生活の変化、社会的背景の変化を抜きには考えられない。北朝鮮みたいに、燃料がなくて山から薪を拾ってきたりしている国では、松林の下は肥えていないからマツタケもにょきにょき出る。ニッポンも北朝鮮のまねをすれば松林は元気、マツタケも復活するかもしれない。北朝鮮を見習え、というわけだ。どうせ農薬を買う金もないから、無農薬の「安心安全社会」ができるだろう。

しかし、ニッポンでは、もし松枯れを無くそうと思えば、松を全部切り倒してしまうか、農薬で害虫が広がるのをある程度抑えるくらいしか道はないのではないか。