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インドの核とモンゴルの朝青龍  ある地政学・・・[2008/9/6]

原子力供給国グループNSGが、アメリカの対インド原子力輸出にオーケーを出した。このグループは昔、ロンドン供給国グループと言われていて、わたしが霞ヶ関をうろつき回っていた若いころは、謎めいた存在だった。(こまかいことは新聞でも見てください)

「唯一の被爆国」もこの供給国グループのメンバーだ。前から言っているとおり、唯一の被爆国なんてのはタワゴトなので、当然、アメリカが過去に二度も核爆発実験をしたインドにたいして「核技術の商売をやりたい」と言い張れば、唯一の被爆国は、「ハイハイ、わかりました、親分」と二つ返事で従うことになる。昔からアメリカにキン*マを握られているからだ。日米安保条約というやつで。

その一方で、北朝鮮の「核の脅威」とやらの話になると、こんどは、アメリカも大騒ぎをして見せる。中身のない北朝鮮の核実験(屁ほどの爆発力もなかったね)をとらえてハシャギまくってきた。この理由については別のところで前から言っているが、リビアに核開発を放棄させた話と同じで、要するにブッシュの引退土産のひとつにしたいのだ。ブッシュ・アメリカの外交努力でならず者国家・北朝鮮も核開発を放棄したのだ、というハッピー・ストーリー。大統領の任期切れまでに間に合わない心配も出てきたが(笑い)。

インドの話は、要するにアメリカの対中国封じ込め戦略にとってもっとも重要な位置にあるインドをアメリカ寄りにしておかねばならない、ということに尽きる。このばあいインドによる核拡散なんかはアメリカにとってどうでもいいのだ。中国封じ込めの重要なコマとして、アメリカにとって優先順位の高いインドとの関係を悪くしてはいけない事情がある。

同様に、かつてインドに対抗して核実験をやったパキスタンは、アメリカが自分勝手な「対テロ戦争」を始めるや、アメリカに協力することでご機嫌とりをした。結果、パキスタンへの制裁政策はかんたんに解除された。わがニッポン政府もアメリカにシッポを振って、パキスタンの核を忘れることにした。そのムシャラクも大統領職から転落してしまったが、どっちにしても「テロとの戦い」のどさくさにまぎれてパキスタンの核問題はうやむやになった。

話は脱線するが、ロシア人相撲取りの「大麻事件」。これなんかは、新冷戦とまでいわれる、ロシアとアメリカの関係がちらちらと後ろに透けて見える。ロシア人をやっつけろ、というニッポン人の心を煽動するのにグッドタイミングだった。これもアメリカさんの謀略だと言ったら、アホかと思われるだろう。それはともかく、怪しげな反露キャンペーンには注意した方が良い。大麻事件なんてのは、芸能人だったらこんなに大騒ぎはしない。「ロシア人」相撲取りだから大騒ぎしているのだ。しかも、大麻なんて毒でも何でもないものを麻薬と混同させて騒いでいるお粗末。

一方、同じ相撲界のトラブルメーカー・朝青龍の事件のばあいは、逆に、問題を大きくしてはいけなかった。なぜかといえば、モンゴルとニッポンの関係を悪くしてはマズイからだ。モンゴルは、アメリカの対中国戦略にとってインドと同様に重要な国なのだ。しかもモンゴルは対ロシア戦略にとっても、大事な位置にある。だから、アメリカの子分ニッポンとしては、モンゴルとのあいだで国民対立をもたらすようなことをしてはならない。

つまり、インドの核問題はこういうアメリカの対中国、対ロシア戦略の大きな枠組みで動いてきた。アメリカ中心の国際外交は、二枚舌、三枚舌を駆使しながら、じつにアホらしく動いている。それと並べると恥ずかしくなるのが、「唯一の被爆国」ニッポンの核外交だ。この唯一の被爆国は、けっきょく核親分の使いっ走り、いわゆるパシリでしかないということだ。親分からあっちへ行けと言われればあっちへ行き、こっちへ来いと言われればこっちへ来る。「テロとの戦い」とかいうのもまったく同じで、またこれから、インド洋の無料ガソリンスタンド法案延長が、パシリ国家の大問題になるというわけだ。