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マンハッタンの南北戦争・・・9.11と戦争国家 (#2001.9.14〜18)

高層ビルの狂気

ニューヨーク・マンハッタン島は、オランダ人(西インド会社)が先住民から安い対価(24ドル相当)で強奪した土地だという。その土地に、100階を超す高層ビルを建てて、そこで当たり前のように日常の仕事をしている人々がいた。地震のおそれがないので、20世紀の始めから高層ビルが乱立することになった。20世紀はアメリカの世紀だった。建築技術の水準が極めて高いうえに、地価が高いこともあって、高層ビルにするのが経済原則に則っていたのかもしれない。

しかし、そういうレベルの話以前に、世界貿易センタービルの崩壊には人間の愚かしさが象徴されている。

旅客機を激突させた男たち以上に、あの世界貿易センター・ビルの存在そのものが狂気の仕業ではなかったか、と思う。もし、ビルの存在自体が異常であることに対する自覚がないとしたら、それは、文明国人の精神がかなり前からマヒしていたことを示しているだろう。わたしのように地べたで暮らしている者から見ると、あのような所でくらしている「ニューヨーカー」とかいう人種の精神構造はとても理解できない。宇宙人かロボットみたいなものかなあ・・・と。亡くなった多くの人を誹謗する気はないけれど、超高層ビルが晴れわたる青空の下で大崩壊しても、人間は愚かだな、としか感じられない。崩壊は自然の摂理にかなっている。そう思うわたしはテロリスト並におかしいのだろうか。

都市爆撃の世紀

アメリカ合衆国というのは、近代兵器による都市爆撃を受けたことのないきわめて特異な国だった。第二次世界大戦をふくめて、アメリカは前世紀に数多くの戦争に関わってきた。にもかかわらず、本国はつねに無傷でありつづけた国だ。こういう国家は異例中の異例の存在だろう。パール・ハーバーは所詮太平洋上のハワイの出来事だった。植民地化された島の純粋な軍港としての位置づけでしかなかっただろう。本土の一般的都市ではなかった。

20世紀は都市爆撃の世紀だった。日本軍の中国重慶爆撃(*注)、ナチス・ドイツのロンドン空襲、米英空軍によるドイツの都市・ドレスデンへのすさまじい絨毯爆撃、米空軍B29東京大空襲、原子爆弾の投下、ベトナム戦争におけるB52の北爆、湾岸戦争のバクダッド空爆。すべてが"正義の爆撃"だった。誰かにとっての正義は、かならず誰かにとっての不正義なものだ。

アメリカ人にとって相手国大都市への空爆にふみきるためのハードルが低いのは、自国の都市が空爆された経験がないこと、その恐れもないこと、と関係があるように考えられる。よく言われる「何の罪もない一般市民」つまり非戦闘員を無差別に一度に殺傷した実績において、アメリカ合衆国は空前絶後の国だ。これについて、この国家が一度でも謝罪したとか反省したとかいう話は聞いたことがない。タラレバのもしもし炒めで言えば、CNNが1945年時点で日本に支局をもっていたとしたら、原爆投下直後の実況テレビ映像は全世界を震撼させただろう。マンハッタンの高層ビル崩壊どころの騒ぎではなかっただろう。たまたま「マンハッタン計画」という名前で、このふたつは共通しているが・・・

「アメリカを強く支持する」

自分たちが世界で一番正しいと信じている人たち、それがイスラエルとアメリカのうり二つの国家体質といえるだろう。先住民の地に入植してきて騎兵ラッパを吹き鳴らしつつ「自由の国家」を築いたアメリカ、パレスチナに人工的に作り上げられた「約束の地」イスラエル。自爆攻撃で抵抗するほか無いと思い詰めた人たちへは、軍事的報復攻撃で答える。これほどのそっくりの国家はない。自らが世界で最も正しい、自由と民主主義の国、神に祝福された国、と公言する人々は、やはりテロリスト以上に恐ろしい人たちに見える。裁判もせずに「縛り首」にするのは、アメリカ独特のリンチという誇るべき伝統だった。どこかの都知事にならっていえば、そういう暴力の遺伝子がアメリカ人のDNAに組み込まれている、ということになるだろう。

残念なことだが、そういう軍事報復を全面支持したのが、あの有名なニッポンの総理大臣だった。テロ(自爆攻撃)がこれだけの世界的反響を引き起こした今となっては、軍事的報復をしないことこそ現実的な唯一のテロ抑止策と考えたいが、アメリカという国家はイスラエルと同じく基本的に力への信奉によって成り立っているので、たぶん何らかのテレビ映像にふさわしい形で激しい報復をするだろう。

これまでアメリカという国の行った、数々の都市爆撃という歴史的事実に対して、日本の政府はこれまで何をしてきたかと言えば、何もしてこなかった。勝った国に戦争犯罪はない。どんな卑劣かつ非人道的な行為を犯したとしても、アメリカ政府を日本政府が非難することはない。小泉総理大臣は、マンハッタン・テロに対して威勢のいい「アメリカを強く支持する」の発言をした。この人にとって強い者には同調し弱い者には高圧的という、港のチンピラ・ヤクザ的行動様式がよく似合っているな、と思う。「卑劣かつ非人道的なテロ」を受けたのだから仕返しは当然だ、そのための軍事力行使は何でもかんでも支持する。テロとの戦いという「正義」があれば多少の犠牲者が出ても構わない、と言うのだろう。目的が正しければ手段も正しい、これはテロリストの論理とどう違うのだろうか。

靖国神社参拝でも今回でも、この人物はアジアに対する軽視と欧米の重視という姿勢を基本にしているふうだ。さすが慶応ボーイ、アジアを蔑視して欧米文明を賛美する福沢諭吉まがいの"脱亜入欧"信奉者なのか。

この首相が今回ブッシュ大統領に会いに行ったとき、アメリカという国は”歓迎の挨拶”として臨界前核実験を実行してくれた。笑うべし。こうした人物が総理大臣であることを日本人の大半が支持しているという。(この項10/13補足)

冷戦終結と南北戦争の始まり

湾岸戦争の時、書いたメモがあるのでここに引用する。1991年2月16日。

地域紛争に過ぎなかったイラク・クウェートの争いにアメリカが介入してきた時点で戦争の性質は"ポスト冷戦型"の戦争に変化した。それは東西対立に代わる"南北戦争の時代"の幕開けだった。その南北戦争の時代は20世紀を通じて準備されてきたのであり、従来いわゆる南北問題と言われてきたのは南北戦争への序奏としての経済戦争という側面だった。経済戦争は冷たい戦争だった。そして今回の米・イラク戦争は、南北戦争の時代における熱い戦争の始まりの段階と位置づけることが出来る。なぜ「始まり」かと言えば、南北の冷戦構造が終わる見込みがまったくないからである。この南北の冷戦構造は北側が圧倒的優位にたちつつ、今後も続いていくだろう。経済力、技術力、軍事力等における南北の序列化された構造を、アメリカが捨てることがあり得ない以上、そして米ソ対立の時代に取って代わって表れてきた南北戦争の時代でアメリカの優位をよりいっそう強固にしようとするかぎり、第二の米・イラク戦争は何度でも起こるはずである。さらに突き詰めていけば、米ソ対立時代に火を噴かなかった「北のアメリカ」対「南のX国」の衝突が表面化するおそれはきわめて強くなるだろう。(引用ここまで)

言うまでもなく、ここで言っている「南」とは地理的な南を必ずしも意味しない。北というのは、対立していたソ連が消滅した後の世界でアメリカン・スタンダードを世界に宣布するアメリカ合衆国のことだ。それから、そのアメリカに寄り添って経済を伸ばそうとしてきたいわゆる先進国グループだった。アメリカン・スタンダードは経済面にあっては"グローバリゼーション"と呼ばれている。ソ連が無くなったことによって、グローバリゼーションの波は一気に、抵抗勢力もほとんどなしに、世界の隅々まで広がった。当然これには無理が伴っていた。経済、文化、社会上のゆがみがアメリカの対極の地域、国に伝播した。

「自由」といえば聞こえは良いが、アメリカの言う「自由」とは、自国が圧倒的優位にたつ世界の力関係のなかでの自由だ。そもそもアメリカの自由と発展は、先住民から奪い取った広大な大地とそこに眠っていた地下資源によって支えられてきた。この歴史を動かしたものをフロンティア・スピリット、またの名を侵略主義とも言う。そのうえ太平洋と大西洋に隔てられて、第一次世界大戦では漁夫の利を得て、ヨーロッパに代わる国際的地位を手に入れることに成功した。さらには、世界恐慌をひきおこすことで第二次世界大戦を誘発したのもこの「自由の国」アメリカだった。

暴力の新たな形態

今日では、一握りの高層ビルに住むビジネスエリートが編み出すマネー操作が全世界へ波及する。情報通信技術を背景にして、貨幣経済のデジタル化がこれをさらに一層加速して、より暴力的にするだろう。これはどうみても暴力の一形態だが、誰もそうとは気がつかない。誰もちょくせつ血を流したり抵抗したりしないからだ。

よく考えてみると、日本の現在の経済状況の悪化もまたこうした国際社会の情勢の流れによって生み出されたものであると言える。つまり日本の中にも経済的格差という「南」が生み出されつつあるわけだ。いままで「北」だった国々のなかに「南」が生まれてくる。ジェノバ・サミットはその「南」の抗議行動に直面した。この傾向はこれからますます鮮明になってくるだろう。国家の枠組みとは全く別次元の、南北戦争の構図があらわになってくるだろう。アメリカが唯一の超大国でありつづけようとする限り、新たな流血をくいとめることは不可能のような気がする。21世紀はそういう混沌とした世界になるような気がする・・・・。まるでイスラム原理主義者だね。

最後に、容易に予測できることだが、「テロとの戦い」の戦勝記念碑としてマンハッタンにまたあんなものを再建する日が遠からず来るだろう。あんなものをまた復活させることが美しい話として語られるのを想像するのは、気が重い。「あんなもの」とは世界貿易センター・ビルのことだ。いつも明るく、強く、正しく、悪魔に屈しない「アメリカン・ストーリー」には反吐が出る思いだ。アメリカ建国以来、先住民を虐殺する銃火器に始まって、高々度爆撃機B29、そして戦略爆撃機B52、あらゆる形態の核兵器、精密誘導爆弾にまで連なる、その時代その時代の世界の最新兵器の、その標的にされてきた数限りない犠牲者を前にすれば、マンハッタンの空に高層ビルが光り輝くことなどありえないだろう。この国家の巨大な暴力装置によって、非民主的で邪悪で下等な野蛮人という名を着せられて虫けらのように殺された、非西欧世界の、名もなく貧しい無数の人々に哀悼の念を表したい。

・アメリカ先住民に関するMAPIYAさんのページhttp://www.webone.ne.jp/~mapiya/history.htm
・同じく作者不詳さんのページhttp://www.aritearu.com/Influence/Native/Nativeword/GhostDance.htm

事件以降、この国家が「テロとの戦い」というスローガンのもとに駆使してきたのは、最新最強の軍事力ばかりではない。巨大な暴力装置は、宇宙空間を完全に軍事利用し、世界の映像メディアを支配し、また世界の金融資産の末端まで管理しようとさえする、空恐ろしい情報技術の怪物としての顔をかいま見せている。(12/7追加補足)

ノーム・チョムスキーのインタビュー集『9.11』が11月30日に文藝春秋から翻訳出版された。チョムスキーの名前を聞いたことのある人もない人も是非読んでみていただきたい。(12/*追加補足)